電線地中化・無電柱化の現実的な問題点を考える【停電対策】

生活
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9月初旬に来た台風15号、10月の台風19号、凄まじい爪痕を残しましたね。

台風15号では
千葉県を中心に、建物の損壊など大きな被害をもたらしましたが、とりわけ停電が二週間以上に及び、一般生活に大きな支障が出ました。

千葉電柱倒壊

【画像出典:千葉日報

送電線の鉄塔が2基、電柱は約2000本が倒壊。

電線に引っ掛かった飛来物が、まともに風を受けたこともあって、たくさんの電柱が倒れてしまった。

おまけに、多くの倒木が邪魔して復旧工事がなかなか進まない、という最悪な状況だったみたいですね。

そこで、「電線地中化」ということがテレビの報道番組などのメディアで、よく取り上げられるようになりました。

電柱を失くして、電線を地面の下に通してしまおうってことですね。

メリットとして

台風など気象災害の影響を受けないし、火事などの影響も受けなくなります。

歩道や車道が通行しやすくなる。

景観がよくなる。ごちゃついた電線が無くなれば、スッキリしますよね。

色々なメリットがあるんですけど、実際はなかなか電線の地中化は全然進んでません。日本全体でみれば3%程度らしいです。

それは何故かと言うと

大変だから

ざっくりし過ぎた言い方ですが(笑)大変なんです。簡単にはいきません。

まぁ、莫大な費用がかかります。1㎞あたり数億円と言われてます。簡単に「さぁ埋めよう」という訳にはいかない金額ですよね。

他にも、実際に地中化するにあたっては、色んな問題点があるんです。

ということで

今回は、土木関連の仕事をしている私GGが考える、現実的な面からの問題を取り上げてみます。

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問題点

前提

まず、大前提な話ですが、電線を通すのは原則的に道路になります。

道路=車道+歩道

公共的な物ですから、基本的に私有地は通せません。(※引き込み線は除く)

何かあって工事が必要な場合、いちいち許可を取らないといけないですしね。借地料の支払いも必要になります。

ですから、通すのは道路ということになります。

余談ですが、架空線が上空で私有地を跨いだ場合も借地料が支払われています。

電柱には

電柱

上から、高圧線低圧線通信線が通ってます。

通信線とは、主に固定電話用のケーブル、光ケーブルケーブルTVのケーブルなどです。

電力会社、電話会社、ケーブルTV会社、と複数の会社が電柱を利用しているんですが、地中化にあたっては各社足並みを揃えなければいけません。

工事費用はかなりの金額になります。

それぞれ会社の規模が違いますし、懐事情も違うでしょう。

簡単にはいかない問題じゃないでしょうか。

保守・復旧・引込

他にも、保守・メンテナンス等の問題もあります。

当たり前な話ですが、地中化すれば電線は見えません。

トラブルが起きた場合、対応がどうしても遅れてしまいます。

原因を特定するのも復旧工事も、架空線の場合に比べて何倍も時間がかかるでしょう。

また、光ケーブルやケーブルTVなどは、地中化工事が完了した後に引込みを行う場合もあるでしょう。

当然ながら、工事は簡単にはいきません。これもまた架空線の場合に比べて何倍も時間がかかるでしょう。

地中化する場合は、こうしたデメリットも理解した上で、ということになりますね。

工事

電線地中化2

出典:国土交通省 無電柱化の推進

では、実際の工事での問題点です。

電線を地中に埋めていく訳ですけど、電柱で使われている電線を、そのまま利用する訳にはいきません。

電線を外して埋める間は何日も停電になっちゃいますから、あり得ませんね。

ですから、工事の流れとしては

①埋める場所を掘削する。
②地中に新しく電線を設置する。
埋め戻す
④架空線と地中線を切り替える
⑤架空線、電柱を撤去する。

こういう感じになります。

ただ、上記①~⑤は簡潔に書きました、物凄く簡潔に書きました。

例えば、①の「掘削する」

実際は街中の場合では掘削する前に、試掘を行います。

工事区間に障害となる物が有るのか無いのか、事前に探るために何箇所か試しに掘るんですね。事前の下調べだけでは不十分なんです。

それから、ようやく本掘削。

他にも、掘削すればアスファルト屑や土砂が出ます。それを現場に置いておけば邪魔になるので、搬出する作業も必要になります。

文字で書けば一行で済みますが、実際はこのように工事は簡単ではありません。

つまり、工事期間がそれなりに掛かってしまうということ。

前述したように工事は道路上で行いますから、工事区間は通行規制が行われます。

道幅が広ければ片側通行規制、狭い所では全面通行規制、ということになるでしょうか。いずれにせよ道路の渋滞など生活に支障が出てくるのは必至です。

地域住民や生活者の理解を得ることは必須項目になりますね。

しかも、電線の地中化は狭い地域だけ行っても意味がありません。町ぐるみ市ぐるみ県ぐるみで行うべきものです。

広く住民や生活者の理解を得なければいけない。

これも意外と簡単にはいかない問題ではないでしょうかね。

既設物

最後に、私が一番厄介だなと思っている問題点です。

それは、既設物との兼ね合い

道路には、すでに色んな物が通っています。

水道管下水管ガス管、雨水を排水するための側溝や管路など。

そこに、プラスして電線を通さないといけない訳です。

電線地中化

出典:国土交通省 無電柱化の推進

上図は、電線地中化のイメージ図なんですが

実際は、水道・下水・ガスも同じように道路と並行して埋設してあります。

そして、家やビルなど建物に向かって直角に引き込まれています。

上下左右、位置を変えて埋設されるはずですが、直角に引き込まれる部分でどうしても交差してしまいます。

下手くそな書き込みで解かりにくいと思いますが(笑)
こういう感じで交差するんです。

そこで問題になってくるのは、電線管の下や直近にある既設管の工事をするような場合ですね。

当然ながら、電線には電気が流れています。

下手な事をすれば、感電しちゃいますよね。最悪の場合は死亡事故です。

おまけに、電線を傷めれば辺り一帯は電気が止まって大騒ぎに。通信線の場合でも同様です。小さな会社なら吹っ飛ぶくらいの補償や賠償を請求される可能性もあります。

ですから、電線管を傷つけないように細心の注意を払いながら、既設管の工事をしなければいけません。

逆の工事の場合も同様です。

ものすごく困難な工事になるでしょうね。

困難な工事ということは、工事期間が長びくということにも繋がり、これもまた付近の住民や生活者に影響が出てしまう訳です。

電線地中化することによって、その他の既設管工事に支障が出る可能性が高くなる。

私は、そう思います。

計画

多くの水道管・下水管などは、古くから埋設してあるものです。昭和の時代、四十年五十年も前に埋設したものも、あるでしょう。

そんな古い水道・下水管ですが

埋設した当時、いずれ電線が埋設される事を想定して計画されていたでしょうか?

私は、そうは思いません。

恐らくですが、電線は電柱を使って通すもの、水道・下水は道路の下、というのが一般的な考え。経済的に効率的になるように計画され埋設されたはずです。

そんな道路に電線を埋設していく訳ですから、一筋縄ではいきません。

十分な調査・計画が必要になってきますね。

また、古い水道管などは新しいものに取替えする時期がいずれ来ます。

こういった後々の工事の事も考慮した計画をやってほしいんですよね。

結構、なおざりにされがちな部分ですから。

最後に

色々と問題点を挙げてみましたが、結局のところ問題になるのは費用です。

ぶっちゃけた話、大抵の問題は金をかければ解決します。

工事に関して言えば

工法に金をかける、機材に金をかける、人員に金をかける。

そうすれば工期は短縮できますし、いろんな問題もクリア出来ます。

でも、それが出来ないから問題になるんですけどね(笑)

 

この問題になる費用ですけど

負担するのは、国・地方自治体・電力会社が分担すると言われています。

「頑張って払って早いとこ地中化してくれ」と言いたいところですが…

国・地方自治体のお金って、私たちが払う税金です。

電力会社も身銭をきって費用を払うことは無いでしょう。料金に転嫁してくるはずです。

結局のところ、私たちが払うということですね。

さして景気が良いとは言えない時期に、増税があったばかりの厳しい時期に、莫大な費用を支払わなければいけない。

結構な問題ですよね。

でも、災害対策として地中化はしなければいけない。

難問です。

国民みんなで考えなきゃいけない問題です。

 

 

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