ここのところ、毎年のように起こる水害や土砂災害。
台風や線状降水帯による記録的な大雨などの影響で、各地で大きな被害が続きました。
このような自然災害は、天変地異などと呼ばれたりもします。
いったいどうして、こんなことが起きるのか?
私たちは、いったいどんな行動をとればいいのか?
土木に関連する仕事をしている者として、ちょっと考えてみます。
水や土砂による災害は、ほとんどの場合、大雨が引き起こすものです。
大量の雨水が流れ込んだ川は許容量を越え、堤防が氾濫や決壊を起こします。
そして、その溢れた水が土砂を伴って私たちの住む都市や町を襲う。
また、山では大雨で地盤が緩み土砂崩れや土石流が起き、水と土砂が民家に襲いかかる。
これが、水害や土砂災害が起きる原因、理由です。
いまさら書き連ねるようなことでは無いかもしれません。
誰しもが理解していることです。
ただ、私たちは知ってはいるけれど
忘れがちになっている別の側面があります。
それは
「私たちは、水によって運ばれてきた堆積物の上で生活している」
ということです。
小学校や中学校の理科で教わることなので、今さら強調するような話ではないのかもしれませんが
現在、多くの人々が生活しているのは、水によって運ばれた土が溜まり平坦になった土地です。
そこに、私たちは田畑を作り、家を建て、道路を作り、町を作っているんです。
もともとは、水や土砂が流れ込んできた事がある場所なんです。
私たちは、そういう場所で暮らしているんです。
私たちが暮らしている土地の成り立ち
現在、地面はアスファルトやコンクリートなどで覆われています。
そうでない所も田畑だったり公園だったり、人間の手が入って昔の痕跡はなかなか見ることは出来ません。
今ある現状が普通で、私たちが暮らしている地面の下は、あたかも頑丈で磐石(ばんじゃく)であるかのように思いがちじゃないですか?
普段は全く意識することじゃありませんよね?私もそうですし。
ですが、実際は違います。
私は職業的にあらゆる場所の地面を掘るんですが
地面のすぐ下に、岩盤や強固な地層が出てくる事は、まずありません。
出てくるのは、礫・砂・泥といった比較的ゆるい地層なんです。
沖積層というもの
こういった、水で流されたものが堆積(たいせき)して出来た地層を沖積層(ちゅうせきそう)と言います。
年代的には、一番新しい地層で
私たちのほとんどが、この沖積層の上で生活しています。
沖積平野(ちゅうせきへいや、alluvial plain)は、平野の一種であり、主に河川による堆積作用によって形成される地形。河川によって運搬された砕屑物(礫、砂、泥)が、山地間の谷底や、山地を離れた平地、河口、さらに沖合にかけて堆積して平野となったものをいう。
(中略)
日本においては人口の大部分が沖積平野に集まっている。
出典:Wikipedia
沖積層は、礫・砂・シルト・粘土というものから成っています。
※一般的に呼ばれている泥とは、土質分類ではシルトと粘土に区分されます。
(それぞれの区別は見た目では、なかなか難しいんですけど。)
これらが、さまざまな様子で堆積しているんです。
単独で堆積している場合もあれば、混ざりあって堆積している場合もあります。
礫と砂が混ざりあって「砂礫」。
シルトと砂が混ざりあって「砂混じりシルト」。
というように、多くの場合は混ざりあって堆積しています。
これらは、元をたどれば上流にある山が崩れたものです。
山と言うより、岩盤と言った方が良いかもしれません。
岩盤はもちろん元々固いんですが、雨や空気の影響で風化して、もろくなっていきます。亀裂に水が入り込み粘土化したり土砂化したりもするんです。
こうして、もろくなった岩盤は雨で少しずつ崩れ、時には大きく崩れていき、それがまた大雨によって低い所へと流されいきます。
流されるものの内、一番大きく重い礫が最初に止まって溜まります。
次に砂が止まって溜まる。
そして小さく軽いシルトと粘土が最後まで流され、水の流れが止まったところでゆっくりと堆積していきます。
これが何度も繰り返され、谷間や低い所が埋まっていき、平坦な土地・平野部が作られていった訳です。
このような沖積層、沖積平野が作られた期間は、約1万年と言われています。
一番新しい地層なんですが、気が遠くなるような長い年月をかけて出来たものなんです。
堆積して出来た平坦地
山裾に広がる田園、その周辺に民家や町が造られていますが
日本ではよく見かけるこのような地形は、土砂が堆積して出来たもの、ということです。
写真だけの判断なので深さまでは分かりませんが、元々は谷間だった場所です。
山からの土砂や上流からの土砂が堆積していき、最後に泥水が溜まり、沈殿した泥が一帯を平坦な土地にしていく。
そんなイメージです。
先に沖積層ということについて書きましたが、実際にはその下に更に時代が古い洪積層(こうせきそう)と言われる堆積物もあります。
人間の手によって、埋めたり盛ったり切ったりして造られた平坦な土地もありますが、それは地面表層の部分的なものが多いです。
基本的には、自然に出来た地形を利用しているだけなんです。
山間部から離れた平野部でも同じです。
大きな河川があり、それに繋がる支流があります。
そして、その河川の堤防の外には平坦な土地が広がり、町が造られていますが
このような土地を掘ってみれば、泥が出ます。その下には砂が出ます。礫も出ます。
上流から運ばれた土砂が、広く堆積しているんですね。
現代人が生きる以前は、人工的な治水対策はしてありませんから、大雨が降れば簡単に川は氾濫していたでしょう。
そして低い所では、泥水が一面を覆っていた時期が何度もあったと思います。
場所によっては、かつて海底だった頃に溜まった泥(シルトや粘土)が出たりもします。
(海水面が数メートル低下して出来た陸地ですね。海に近い平野部に多いです。)
海沿いでは人工的に埋め立てた場所もありますが
ほとんどの平野部も、自然が造り出したものなんです。
理解しておくべきこと
誤解を恐れずに言いますが
大雨が降り、水や土砂が川から溢れて低い土地に広がるということは、自然な現象です。
山の斜面が崩れるのも、自然な現象です。
土地の成り立ちを見てきたとおりです。
私たち人間が生活している場所でこういった現象が起こるから、水害とか災害と呼ばれるということに過ぎません。
浸水などの被害を受けられた方々に対して、ひどく無神経で不謹慎な言い方になってしまいますけど、これも現実的な一面ではないでしょうか。
私たちが暮らしている土地は、かつて水や土砂が流れ込んだことのある所である
どんな場所でも
水や土砂が押し寄せてくる可能性は十分にある
これは、忘れずに理解しておくべきことです。
私たちに出来ること、するべきこと
現在では、さまざまな対策がされていますから少々のことでは被害は受けませんが、万全ではありません。
自然の現象に対する対策は難しいこと。100%の対策は恐らく不可能でしょう。
私たちに出来ることは、逃げること、避難すること。
これのみです。
個人の力で、自然の力に立ち向かえるもんじゃありません。
情報を集める。的確に判断して早めに避難する。
やはり、これが大事なことになってきます。
そして、避難するうえで重要なことは、地形を把握しておくということです。
完璧な地形の理解は必要ありませんが、ある程度の地形は把握しておくべきです。避難の判断をするうえでも、避難する場所や方向に関しても重要なことになります。
当然ながら、高い場所から低い場所へと水は流れ込んできます。これは海抜が低いところや大きな河川沿いの平地だけとは限りません。危険性はどこにでもあります。
土砂に関しても同じです。高い場所から低い場所へと流れます。
最低限、市区町村から出されているハザードマップに目を通して把握しておきましょう。
万全ではないかもしれませんが、目安にはなります。
本来なら、自分の住む地域の土地の成り立ちや地質を知っておくのが一番良いんですけどね。
地域の図書館に行けばそういう情報が得られます。面倒ですが知っておいて損はないと思いますよ。
最後に
繰り返しになりますが
どんな場所でも、水や土砂が押し寄せてくる可能性は十分にある
という事は忘れてはいけません。
台風や大雨の際、役所や地域などから避難勧告など出されますが
結局のところ、するべき事を判断するのは個人です。
自然のすることを予測し、判断するのは難しいことですが、やらなくちゃいけません。
まず守るべきは
自分の、家族の命。
車とか家とか、財産が失われることは一大事ですけど、命があってこそのもの。
私は、そう思います。
※文中、「沖積」「洪積」と書きましたが、現在はそれぞれ「完新世」「更新世」と言われているようです。「沖積」「洪積」は普段私が使っている表現になります。
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